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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)405号 判決

控訴人

北井進

右訴訟代理人弁護士

篠田健一

被控訴人

京都信用金庫

右代表者代表理事

田中成幸

右訴訟代理人弁護士

森川清一

吉永透

被控訴人

滋賀県信用保証協会

右代表者理事

久保義雄

右訴訟代理人弁護士

川村忠

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

1  控訴人が、被控訴人らの各根抵当権に基づく競売申立てにより大津地方裁判所が施行した控訴人主張のような競売事件において、原判決末尾添付物件目録記載の(一)ないし(四)の土地と(五)及び(六)の建物を代金四二三〇万円で一括競落し、その代金を完納したことは、被控訴人金庫との関係では当事者間に争いがなく、〈証拠〉によつてこれを認めることができる。

2  控訴人は、右競売手続(なお、〈証拠〉によれば、本件競売は期間入札の方法によつてなされたことが認められる。)は民法五六八条一、二項、五六五条所定の数量指示売買であるところ、右競落物件中(一)の土地の面積(実測八五・六九平方メートル)が競売にさいし明示された面積(登記簿記載面積と同じ一五七・〇〇平方メートル)より不足すると主張して代金の減額を請求するので検討する。

(一)  まず、民法五六五条所定のいわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量(本件では土地の面積)を確保するため、その一定の数量を売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買をいい、土地の売買において当該土地を登記簿記載の地番地目坪数をもつて表示したとしても、それだけをもつて直ちに売主が右坪数のあることを表示したものと解することはできないのであつて、当該売買が数量指示売買であるか否かはその売買におけるその他の諸般の事情をも総合してこれを決するのが相当である。また、この理は同法五六八条一項によつて前記法条が適用される担保権の実行としての不動産競売においても同様であると考えられる(最高裁昭和四三年八月二〇日三小判決民集二二巻八号一六九二頁、大審院昭和一四年八月一二日判決民集一八巻一二号八一七頁各参照)。

(二)  そこで、これを本件についてみるに、〈証拠〉によれば、昭和五八年一一月二一日になされた本件競売手続における「期間入札の公告」においては、競売物件中(一)ないし(四)の土地と(五)の建物についてはすべて登記簿上の記載に基づきその所在、地番、地目、地積、建物の種類構造床面積を表示し、なお、地目について現況と異なるものは現況をも附記し、(六)の建物については未登記物件として別紙目録(六)のとおり表示するとともに、一括競売であることも明示し、かつ最低売却価額として「三八〇七万円、内訳(一)(三)物件が二六二六万円、(二)(四)(五)(ただし、未登記建物も含む趣旨)物件が一一八一万円」と表示されていたことが認められる。また、右公告書には、以上のような記載のほか、別途、本件競売物件に関する物件明細書、現況調査報告書、評価書の各写しを執行裁判所(裁判所書記官室)に備え置いて一般の閲覧に供している旨附記されているところ(右各写しの備え置きの根拠としては民執法六二条、同規則三一条、同法五七条、同規則二九条、同法五八条、同規則三〇条を準用する同法一八八条、同規則一七三条一項参照)、〈証拠〉によれば、、これらの各書面における競売物件の表示もすべて前記公告書と同様であるが、そのうち評価書の物件表示欄には「登記簿による」ことを特に明示し、かつ、その備考欄には登記簿の記載事項と現況との異同として「概ね同一と判断される。」旨記載されていること、さらに最低売却価額を定めるための評価額算出過程として、まず各物件の平方メートル単位価額を決定し、これを基準として各登記簿上の面積を乗じて算出したことを示す一欄表を作成し、かくして得られた各物件の価額の合計をもつて本件一括競売の最低売却価額三八〇七万円とした旨の記載も存することが認められる。

しかるところ、〈証拠〉を総合すると、本件競売物件中の(一)ないし(四)の土地は全体としてはほぼL字型をした一団の土地でその登記簿上の面積すなわち前記公示にかかる土地の面積合計は五一一・二九平方メートルであつたが、その実測面積は合計四三九・九八平方メートルで双方に開差の存することが認められる。

(三) そして、以上のような公告及び評価書の記載は競売物件の適正換価の保証に必要な最低売却価額決定の経過を一般に公示したものにほかならず、右公示内容は当該競売が数量指示売買であるか否かを決するについても無視できないところである。しかるところ、右評価書の記載中、競売物件の現況が登記簿上の記載と「概ね同一」としたうえ、前記のような手法により最低売却価額を決定した経過は、全体としては妥当であるとしても、土地の面積に関しては不正確のそしりを免れないものである。

しかし、ひるがえつて考えるに、右のような公告、評価書の作成等は競売物件の適正明朗な売却をはかるため、あるいは、ひろく一般市民が適正明朗な競落をなしうることを保障するためになされた執行裁判所の執行処分ではあるが、法律上、右の記載内容に公信力を与えたものとまではいえないものである。また、一般に、不動産(土地)登記簿上の記載ことにその面積記載が往々にして正確な現況と異なるものの存することは公知の事実であり、それゆえ、一般に土地売買においては、特段の事情がないかぎり、売買土地が登記簿上の地番地目面積の記載によつて表示される場合でもそれは単に当該土地を特定表示するものにすぎす、実際の土地の面積を確保するためのものではないと解するのが相当である。現に、本件においても、〈証拠〉を総合すると、地上建物(五)(六)は暫くおき、(一)ないし(四)の土地は前記のとおり全体としてほぼL字型をした一体の画地であり、かつ、その外延はブロック塀、旧国鉄湖西線敷地、道路等で画され、全体としてはほぼ明らかな形状であること、控訴人は当時経験一八年の実績を有する不動産取引業者であつて、本件競落土地上にアパートを建てるつもりで現場に臨み、これを見分したうえ入札に及んだものであることが認められる。

(四) 以上のような点を彼此検討し、また本件競売手続が土地四筆と地上建物二棟の一括競売によつてなされたものである点等をあわせ考えると、結局、控訴人がした本件競落を民法五六八条一項、五六五条所定の数量指示売買であると解することは困難である。

(五)  控訴人は以上の点に関連して現行民事執行法の趣旨について主張するところがあり、その一般的な論旨の一部に是認することのできる部分の存することは先に説示したとおりであるが、それがゆえに直ちに本件一括競売がいわゆる数量指示売買であると解することはできない。前記評価書の記載内容の一部に不正確のそしりを免れない部分の存する点が民執法七一条六号所定の最低売却価額決定手続上の「重大な誤り」に該当するか否かは前記判断と直接関係がないことも多言を要しないところである。

3  そうすると、控訴人の本訴請求は爾余の判断をするまでもなく失当として棄却を免れず、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今富 滋 裁判官畑 郁夫 裁判官遠藤賢治)

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